明らかに、僕たち2人は浮いていた。
現場には、大工やら配管やら様々な業種の職人たちが集まっていた。
皆「職人」らしい作業服を着ていた。
僕も相方も、一応それらしい格好をしていったつもりだったが、
職人集団に入ると、カジュアルさが際立った。
せめてもの救いが、作業用のヘルメットを被っていたことだった。
昨日大急ぎで買いに行った、ピカピカの、新品の。
小ぎれいな作業服を着た担当者が、僕らを見つけると現場まで案内してくれた。
僕らの仕事は「壁紙張り」だった。
すっかり忘れていたが「壁紙張り」は「パテ塗り」とセットだ。
「パテ塗り」とは、壁紙を張る前の下作業。
パテを塗り、石膏ボード間の隙間や、
ビスで凹んだ部分を平らにする作業だ。
これをやらないと、壁紙を張った後、凸凹になる。
現場の担当者は、当然のように「パテ塗り」を指示した。
でも僕たちは「パテ塗り」のことはすっかり忘れていて、全く準備していかなかった。
それでも僕は、笑顔で爽やかに
「了解です!!」
と答えて見せた。
担当者が去ったのを確認した後、
僕たちはコソコソと話し合った。
「道具ないね」
「買ってくるしかないね」
「昼休みの時買ってこれないかな」
「いや、今すぐ必要でしょ」
「じゃあ俺やれる作業やってるから、相方くん買ってきてよ」
「まだ店やってないんじゃない?」
「(調べる)あっ、近くにサンデーある。やってるよ!!」
「OK」
僕は相方にクレジットカードを渡した。
その間僕はなんだかよくわからないテープを貼っていった。
職業訓練校では使わなかったものはわからない。
相方曰く
「学校では、『削るのに時間がかかるから』やらなかった。でも口頭では説明した」という。
「えっ?覚えてないの??」という口調だった。
テストの点数は僕の方が良かったからか、
「自分が覚えていることは君も覚えているはずだ」というのが彼の基本的な態度だ。
その相方も30分ほどで戻ってきた。
支給された粉のパテに水を混ぜて練る。
そして、買ってきたばかりの道具を使って塗っていく。
ひたすら塗り続けた。
壁と天井。
ひたすら。
塗るだけ。
ひたすら。
相方は
「この仕事けっこう好きだ」という。
僕は
「苦行以外の何物でもない…」と
本音で答えた。
でも、セルフリノベしているときも、やっているときはつらかったけど、終わった時の達成感と言ったら、ちょっと他にないものがあった。
今回も壁紙を張り終えるまでやったら、また違った感想を持つのかもしれないな。
ふと気がつくと、向かいの部屋は、本物の職人さんだった。
向かいの部屋を拠点にして、いろんな場所を塗りまくっているようだった。
彼は僕らの部屋に来て
「いつまでやるのか?」と聞いた。
僕たちの仕事分で自分の仕事がどうなるのかを計算しているようだった。
僕は彼が戻ってくるたび、チラチラと、ときにジーっと、
彼の仕草や道具、パテの水分具合などを観察した。
そして逐一相方に報告した。
こうして職人の仕事ぶりをチラ見させてもらえるだけでもだいぶ勉強になる。
1日かけて、2人で3部屋終わった。
自分たちの仕事の質と量がどの程度なのかはわからない。
とにかく、土曜までに11部屋分終わらせることになっている。
そんなことを考えているところに、同業者らしき人がふらりと来て
「2人で3部屋やったの?仕事早いね〜」
と言って去っていった。
早いの??
本当かな?
喉の痛みは続いているが、とにかく明日もがんばろう。
ちなみにお昼は、スーパーマーケットの弁当を食べた。
店内で食べると消費税10%のはずだけど、8%のままだった。
イートインは申告しない限り、8%なのかな。