田舎ライフを満喫できる物件を紹介された僕は、いろいろ考えていた。
先駆者Nに相談したり、起業家Dに相談したり。
この物件の問題点は
・トイレが汲み取り
・お風呂の給湯が薪
この2つを新しいものにするだけで250万円は飛ぶだろう。
いや、300万円は見たほうがいいかも知れない。
不動産屋は「300万円で売れれば御の字」と言っていた。
再び、住めるようにするには、購入費+リフォーム費。
つまり300万+300万=600万。
既に、数社がこの物件獲得に向け動いているらしかった。
魅力的な物件ではあったが、僕が手を出すにはちょっと作業が煩雑になりすぎる。
何より僕は、今目の前にやる物件が2つある。
どちらも全力で取り組んでやっとこさうまくいくか?というところだ。
冷静に考えれば、僕がこの「田舎ライフ物件」に手を出す余裕などない。
僕は、土曜の夕方、友人Dと話をした後、スポーツセンターの駐車場で、不動産屋に断りの電話を入れた。
「せっかく情報をいただいたんですが、手が回りません」と正直に答えた。
向こうは商売とは言え、僕のような、どこの馬の骨かもわからない人間に情報をくれた。
これは親切心からと言って良いだろう。
それに対し僕は、断りを入れる。誠意を持って伝えねばならなかった。
彼は
「1軒目だしね」
と、理解を示してはくれた。
そして続けた。
「こういう本当にいい物件は、市場に出る前に、不動産屋が自分たちで買って、きれいにして、転売しているんですよ。
みんな不動産屋はこうやってんですよ。
あそこなら900万円くらいで売れる。
君はNの友達だからこういう情報流してあげたんだけどね。
普通ならありえないことだよ」
と、絶好のチャンスを逃した僕に、最後チクリと刺すことは忘れなかった。
僕はすがった。
「わかっています。情報をいただいたことにすごく感謝しています。
今回買わなかったことで、もうご連絡いただけないことになるかと思うと残念なんですが、いかんせんもう手が回らなくて…」
そこまで言うと、彼も
「まあ資金繰りとかあるからね」と
返した。
本当にいい物件は、市場に出る前に不動産屋業者が買ってしまう。もしくはお得意に回してしまう。
その話は知っていた(実際、知り合いに、妻が不動産屋だったために緑町の土地が売りに出る前に購入し家を建てた人がいた)。
しかし、実際自分がそのチャンスに遭遇し、みすみすと逃してしまったことが理解できると、自分の中に焦燥感が湧き上がってくるのがわかった。
・トイレが汲み取り
・お風呂の給湯が薪
という2つの大きな問題点は、
「900万円で売れる」という一言で、一気に見方が変わってしまった。
逆に言えば「300万円で業者に発注してしまえば済んでしまう問題」でしかなかった。
たったそれだけで、600万が900万円になる。
僕は、不動産を購入し賃貸するというやり方そのものが、根本的に間違っているのではないか?という気さえしてきたのだった。
でも、今の僕に必要なことは、伊達城物件とアパート改修で融資を得ること。
そのことに集中することなのだ。
僕はたまらず「あーっ!!」と叫んだ。
双子は驚き僕を見て
「爸爸,怎么了?」と聞いた。
僕は笑顔で
「爸爸累了」と答えるしかなかった。
疲れても、やるしかないのだ。