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双子パパの脱サラ日記〜子供との時間を大切にして生きる実証実験〜

テレビ一筋だった39歳。扶養や住宅ローンを抱える中とりあえず脱サラ。このブログでは、赤字生活で始まる無鉄砲な脱サラから事業成功までの過程を包み隠さずリアルタイムでお伝えします。当面の着地点は「好きな時に好きな場所に旅。家族みんなで。時に一人で」。

台湾で財布を落とした結果

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財布を受け取った、安平警察署


何度探してもなかった。

身体中のポケットとバッグの中を3巡して、僕は確信せざるをえなかった。

ない。
財布がない。

僕は、台南市という知り合いが1人もいない異国の地で財布を落としたのだ。

通りに面した食堂(文章牛肉店)で、メニューを決め、支払いを済ませようとしたときだった。

ひとり旅の僕は、いつものように周りの人に何がオススメかを聞いていた。
丁寧に教えてくれた60代と思しき夫婦は、立ち上がってせかせかとポケットをまさぐっている僕を、何事かと見上げていた。

「どうした??」と怪訝そうに聞いてくる。
「財布を落としたみたいです」

この一言にギョッとして、周りの客が一斉にこちらを見る。いかにも「仕事帰り」という30代ぐらいの男性の目がカッと見開いている。高級そうなYシャツとは不釣合いの表情だった。

「探してきます」。それしか出来ることはない。台南には知り合いが1人もいない。僕が出来ることは探すことだけ。

「どうやって??」と夫婦の夫。そこには「探したって見つかりっこないでしょ…」という力ないニュアンスが含まれている。

「今来た道を辿ります。それしか方法がない」

テーブル中の客が、箸を止めて僕を見ていた。
誰かが何かを言った気がしたが、もう何も聞こえなかった。

ちょうど満月の日だった。
僕は、この店に来る前、この美しい満月を何度も何度も撮影していた。

この店に来る前に公園で、おじさんに道を聞いた。
そしたらおじさんが、「食事がまだなら、美味しいお店を紹介するよ。僕はもう食事を済ませから紹介だけ」と言って、僕をこの「文章牛肉店」に連れて来てくれたのだった。バイクで前を走る彼を自転車で必死に追いかけながら、それでも僕は何度も満月を撮っていた。

この美しい瞬間を切り取って、日本に持ち帰りたかった。
日本でこの写真を見れば、この美しい街並みで感じた台湾人の親切さが、また僕の心を温めてくれる。


財布を探しに戻ろうと自転車にまたがって、ふと満月を見上げてみた。

旅を満喫していたさっきの僕と、財布をなくした今の僕とでは全然違うのに、満月はさっきと同じ。

改めてよく見ると、その佇まいはとても冷たく僕を突き放しているように見える。傲慢にさえ映る。
満月は、僕が財布を落としたことに全く同情なんかしてくれていない。

さっき撮った写真は「美しい瞬間」ではなく「美しいと思い込んでいた瞬間」なのかも知れない。


とりあえず、今来た道をたどりながら、公園へと向かった。

この食堂に来る直前、僕は川沿いの公園で台湾ビールを飲んでいた。
本当は「夕日を眺めながら台湾ビール」で決め込もうと思っていたが日没に間に合わず、とりあえずのんびりビールを堪能していたのだ。30分後にはこんなことになるとも知らず。

くまなく地面に目をやりながら、アルコールが抜けず少し麻痺している脳みそで、僕はあれこれ考えた。

もし、もし財布が見つからなかったら、僕はどうすべきか?

それほど心配することではない。

ここは先進国、台湾だ。とりあえずクレジットカードがあれば当面はしのげる。

宿泊も問題ない。移動も新幹線ならばクレジットカードの使用は問題ないはずだ。

クレジットカード万歳!!

いや待てよ…
クレジットカード2枚はどこにあるっけ?

あっ!2枚枚とも落とした財布の中だ…

やばい…クレジットカードないじゃん…

いや、待て待て!両替していない日本円がまだある。

いや待てよ…
日本円はどこにあるっけ?

あっ!全部あの財布の中だ…

やばい…

俺マジ無一文だ…

やばい、やばいぞ!

どうする?ドースル?俺!!

ふと頭に浮かんだのは、辺境作家・高野秀行著『怪しいシンドバッド』に出てた、インドでパスポートを強盗された話。彼は領事館に相談に言ったらしい(高野さんのパスポートは、奇跡的に領事館に郵送されてきて、現地の領事館職員も「こんなことは初めてだ」と驚愕したという)。
【参考】

 

怪しいシンドバッド (集英社文庫)

怪しいシンドバッド (集英社文庫)

 

 

そうだ。とりあえず大使館に逃げ込もう。

いや、待てよ?
台湾の日本大使館ってどこだ?台南にはないよな…
(実質的な大使館、領事館の「台北駐日経済文化代表処」は台北と高雄にあるそうです)

大使館に泣きつくにも、たどり着くまでの足がない…

やばい、これはヤバイぞ!!

財布を取り戻すしかない!!

財布よ、どうかあってくれ!!


落とした候補地は2箇所だった。

ビールを飲んだ公園と、ビールを買ったファミリーマート

ビールを買った後、しょうもない写真を撮ったときが最大の候補の瞬間。
撮影しようと中腰になったときに、お尻のポケットから落ちたのかも。

閑散とした公園で落としたのなら拾われていない可能性は大だったが、もし利用客の多いファミリーマートで落としたのなら、絶望的だ。

買い物をしてから、すでに1時間以上経過している。


ファミリーマートにはない。どうか、どうか公園にあってくれ。

焦りが胃を突き上げてくる。

信号待ちのときに満月を見上げる。相変わらず神々しくどっしりしている。僕の苦悩など、どこ吹く風だ。

自転車で人とすれ違うたび、「あの人は財布を落としていない人」とうらやましくなる。

公園の入り口では、カップルが寄り添って川を眺めている。

その隣を、財布を落として平静さを失った37歳の日本人が自転車で走り抜けていく。

財布よ、あってくれ、あってくれ。

公園の細い道を辿る。来た道を正確に辿る。道にはない。

きっとビールを飲んだ椅子に落ちているはずだ。椅子!!

その椅子が見えてきた。

あってくれ、あってくれ。俺の財布よ!!

………

ゴーン

ない、ない、ない!!

どこにもない!!

僕は椅子にぺたりと座り込んだ。

ない。という現実。

周りには、犬の散歩をしている現地の人が、楽しそうに世間話していた。とても楽しそうに。

彼らは財布を落としていない。当たり前の日常が続いている。

でも僕は、異国で財布を落とした37歳。彼らと僕とには大きな隔たりがある。

さあどうする?ドースル?どうする??俺!!
落ち込んでいる時間はない。

とりあえず、次の候補地、最大の候補地、ファミリーマートに行かねば。

来た道を正確に辿る。

段差を走るときの衝撃で落ちたのかも、と、段差があるところは念入りに探しながら走るが、やはりない。

戻りながら、自分の寄り道が意外と多いことにイライラしながら、ファミリーマートに向かう。
あってくれ、あってくれ。

ファミリーマートが見えてきた。

さあ、あってくれ!!

………

………

ゴーン

ない… 

ない、ない!!

どこにもない!!

何度も目を凝らして見ても、やはりない。

ないのか?ないのだな。

そうか… わかった。受け入れるよ。

ない、ないのだ。

僕は諦めた。もう、ないものはないのだ。


グッバイ マイ財布。1,000円の安物だったけど、君にはだいぶ世話になったよ。

グッバイ 台湾ドル。君たちには世話になる前の短い付き合いだったね。

旅行2日目。台湾ドルで5万円ぐらいが入っていたはずだ。空港の駐車場代にとっておいた日本円は3,000円。
これぐらいの額なら、罪悪感もそれほどなくネコババするにはちょうどいいかもしれない。

お酒が強くない僕でも、酔いはすっかり覚めていた

絶望が体中を蝕んでしまった中で、アルコールがはじき飛び、クリアになった頭でやるべきことを考える。

運転免許証や保険証の再発行は、まずは住民票をとってか。
カードの再発行は、ネットで完結できるかな。

あれやこれやで、2日はかかるだろうなぁ。

帰りの航空チケット、日程変更もまた面倒だなぁ。
ピーチだから変更だけでお金かかるな…
また、余計な出費だ…

店の中に目を向けると、店員がレジ打ちをしていた。
彼らもまた、平穏な日常を過ごしている、向こう側の人たちだった。

ま、せっかく来たんだし、店員に聞くだけ聞いてみるか。

どうするかはその後に先送りだ。

さっきビールを買ったときの店員さんは見当たらなかったので、レジの女の子に声をかける。

「すみません。このお店で財布を落としたかも知れないんですが…」

「お待ちください」

女性店員に怪訝な表情はなく、何か「あっ!!」という感じの表情だった。様子がおかしい。

あれ??どゆこと??

奥に姿を消した女の子に呼ばれ、ビールを買ったときの店員さんが出てきた。彼は何か期待感に満ちたような表情をしている。何かを楽しんでいる。でも嫌味な感じは一切ない。

藁にもすがる思いで、改めて聞いてみる。

「このお店で財布を落としたかも知れないんですが…」
「ええ。そうみたいですね」と微笑む。
「えっ??あったんですか??」
「さきほど、日本人のお客来なかった?って聞かれたんです。入り口で日本人の財布を拾ったって。でもそのお客が戻ってくる保証もないから、直接警察に届けてくれとお願いしたところでした」
「どんな方でした??」
「若い男性でした」


マジかー!!!!!


「警察って近いんですか???」
「ええ、この通りをまっすぐ行った道路沿いです。右側です」

ありがとう!!店員さん!!

彼の大ファインプレーをよそに、僕は、信じられない思いでいそいそと店を出て再度自転車にまたがり、警察署へと急いだ。

ふと空を見上げると、より高いところに登った満月がとても美しい。

行き過ぎていないか心配になり、時折道行く人に警察署の位置を尋ねるが、皆同じ方向を示す。
間違いない。警察署に近づいている。僕の財布に近づいている。

心なしか、尋ねた人が心配そうにしている気がする。
「この日本人はなぜゆえに警察署に行くのだ?」と言いたげな気に。

さすがに聞かれなければこちらから「いや財布落として」なんて言い出しはしなかったけど、心の中で「台湾の人たちはなぜこんなにも親切なのだ!!」とひとりごちる。

しばらく走ると、それらしき建物が見えてきた。「POLICE」のマーク。間違いない。ここだ。


自転車を停めると、中から1人の若い男性が出てきた。学生風だ。
僕を見ると、「あっ」という表情になり、小走りに中に入っていく。僕を指さしている。

その興奮気味な姿を見て僕は確信した。財布は無事だ!!

あの青年はきっと
「落とした人が来ましたよ!」とでも伝えてくれているのだろう。


 警察署内はすでに当直態勢で人はほとんどいなかったが、彼に続いて中に入ると、もう僕が来た理由を全員がわかっているという感じだった。歓迎ムードさえ広がっていた。

50がらみの警察官が、僕の財布と中身が一緒に撮影した写真を見せ「これだろ?」と嬉しそうに聞いた。
僕は、小さく頷いたつもりだったけど、今思い返せば、首の関節が外れるほど大きく頷いていたと思う。

彼は、椅子を指さし「座って」と言った。

拾得物の届け出処理は済んでいたようだった。
警察官の机には他にも、財布の中にあるものを丁寧に記録した書類などが上がっていた。

そして、警察官から茶色の封筒が手渡された。

「開けて確認してください」

封筒は厳重に、かつ、きちょう面に封どめされていた。
誰も寄せ付けないような厳格さをにじませた封筒は、台湾警察の誇りを象徴しているように見えた。

ビリビリと開けてみると、そこには、使い古されたモンベルの財布があった。見慣れたいつもの財布だった。財布はまるで何もなかったかのように佇んでいた。

もちろん、お金もそのままだった。

すべてが元通り!!

 

こんなことってあるのだろうか?

僕は今台湾にいる。

お金を落としても、拾った人が警察署に届けてくれる国。

それが台湾なのか。

中国4千年の歴史を受け継ぎながらも、先進国の常識を共有し、倫理が根付く国。

こんな場所、他にあるだろうか??


拾ってくれた男性が、どうしたらいいかわからないという感じで佇んでいた。

僕は、学生風の男性に「あなたが拾ってくれたんですか?」と尋ねた

「そうです」と、優しい笑顔で、少し照れ臭そうに頷いだ。台南市内にある理系の大学に通う学生だという。

静かな話し方で聞かれたこと以外は話さなかったが、誠実さがにじみ出ていた。

一緒に写真を撮りたいけど、ここは警察署の中。
日本の警察署内で写真撮影しだしたら、締め出されるだろう。

「どうしたもんか」とソワソワしていると、新たな書類の処理をしていた警察官が
「写真撮りたい?」と聞いてくれた。

「ぜひ!!」

拾ってくれた学生と一緒に撮影してもらうことになった。

撮影係りは、近くにいた女性警察官。なんか、鑑識っぽい。見るからに仕事のできそうな女性。
カメラを構えるポーズも決まってる。

「いきますよー」
パチリ。
ありがとう。

警察署の中で撮影させてくれるのが、またいい。

台湾・台南市。先進国ながらも、古き良きゆるさが残っている。

でも、調子に乗って紛失に関する書類を撮影しようとしたら怒られた。当たり前か。


学生さんに
「夕飯は食べましたか?」と聞くと
「食べました」という。

「ぜひごちそうさせてほしいんですが、明日はいかがですか?」と聞くとうれしそうにしてくれた。「台南は全然わからないので、お店を指定してもらえますか?そこに集合しましょう」

フェイスブックで連絡先を交換し、お店の住所を送信してもらうことにして、翌日落ち合うことにした。

警察署での処理が終わると、僕は警察署の外観を撮影した。

そこで初めて気づいた。「安平派出所」。

ここがかの有名な「安平」か!

桃園で話したおばちゃんも「台南行くなら安平がオススメよ!」って教えてくれたっけ。

おばちゃん、安平街は見れなかったけど、安平はめちゃくちゃ堪能したよ!!


そして僕は、すぐにファミリーマートへと向かった。

自転車とはいえ、すでに結構な距離を走っているにも関わらず、全く疲れを感じなかった。

早くあの店員さんに報告したかった。さっきはバタバタと出てきてしまって、ろくにお礼の気持ちを伝えてなかった。
店員さんは、預かってネコババすることだってできたかも知れないなのに、警察に届けるよう進言してくれたことに感謝の気持ちを伝えたかった。

ファミリーマートについて、彼が僕を見つけると、近寄ってきた。
「どうでした??」
「無事、戻ってきました」

と、答えると彼は心底ほっとしたような表情になって「よかった」とつぶやいた。

「ありがとう、本当にありがとう。」と伝えると
「ありがとうなんて言われるようなことではないよ」と照れくさそうにした。

台湾の青年は、感謝されると照れくさくなるらしい。

ところで、と僕は切り出した。

「拾った人から、落とした日本人に心当たりないか?と聞かれたとき、店員さんは僕だと予想ついていたの?僕を覚えていたの?」
「うん、印象に残っていた。私が質問した時、あなたキョトンとしてたから。外国人なんだなって思ったんだ。日本人だという確証はなかったけど、日本人と言われて、あの人かなって思ったよ」

そういうことか。
確かにあのとき何か聞かれたけど、僕は反応できなかったっけ。
僕の中国語は生活には不自由しないけど、小声で不意に話しかけられると全く聞き取れない。

恐らく「袋いりますか?」とでも聞かれたのだろう。

さらに僕は「実はお願いがあるんです」と切り出した。

「当時の様子を動画でインタビューさせてくれませんか?」

彼は意外なお願いに、一瞬目を丸くした後「OK」と言った。

「でも、ファミマのユニフォームは脱ぐね」

今度は僕が「OK」と返す。

外に出て、まずは落ちていた場所を教えてもらう。

やはりそうだ。写真を撮った場所。かがんだときにお尻のポケットから落ちたのだ。

彼はインタビューに答えてこう言った。(インタビュー動画は後日別にアップします)

「台湾に住んでいる感じには見えなかったし、たぶん旅行者だろうから、財布なんか落としてずいぶん困るだろうなと思ったよ。本当によかった」

僕は、彼とも次の日の食事に誘い、フェイスブックを交換して別れた。

満月は煌々としていたけど、夜の暗さにもしっかりと馴染んでいた。いつもの通りのとても美しい満月だった。

台湾で財布を落とした結果、台湾人が本当に本当に優しく倫理観が高いことを実感するに至った。
もちろんこんな善人ばかりではないだろう。

でも、こういう人たちを生み出す社会であるというのは、とても貴重な国であるのは間違いないだろう。

なんていい日なんだ!!

よし、「文章牛肉店」で夕飯だ!!メニューはすでに決めている!!

 

 

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